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【映画】紙の月|目隠しして坂道を自転車で暴走する感覚。止まった時が、止まる時。

紙の月

自己肯定感なんて考えるだけ無駄だと思っている私でも

さずがに「もっと自分の気持ちに目を向けなよ」と言ってしまいたくなるほど、

主人公の梨花は抑え込んでいる。諦めているようにも見える。

 

夫は全てにおいて自分のことしか見えていない。この映画で一番厄介な男。

妻がペアの時計をプレゼントした後で「もっと高いものをつけなきゃ」って

ブランドの時計を買ってくる。悪気なく、さも良いことをしたかのような顔で。

妻の戸惑いに気づきもしない。もう最悪だ。

 

光太という大学生との関係も、最初から結末がわかっているし、

常にそれを意識している。

壊れるのは、わかっている。けど、止められない。

 

目をつぶったまま、自転車で坂道を下る感覚だ。

大けがをするかもしれないし、誰かを傷つけるかもしれない。

人生を棒に振るほどのルール違反を犯していることもわかっている。

でも、どうしてもブレーキを握れない。

何かにぶつかって、物理的に止まるまで。

やけくそって、こういう心理状態なのだと思う。

 

同僚も顧客も家族もみんな、好き勝手やっている。好き勝手言っている。

言いたいことを言えない自分は、いつもひとりだけ損している気分になるのだ。

そこで芽生えた「やったもん勝ちじゃん」という感情が

とことん暴走するのは、ちょっと理解できる。

 

いい女ぶらずに、言いたいことを言えれば少し結末が変わったのかもしれないと思う。

フィクションなのに、主人公の梨花にとことん同情してしまう。

 

とりあえず、時計をプレゼントしたのに時計を買ってきた夫には、

「バカなのか?」くらいは言ってもバチはあたらないだろう。

 

キャスト

監督:吉田大八

出演:宮沢りえ池松壮亮小林聡美石橋蓮司大島優子ほか

あらすじ

バブル崩壊直後の1994年。夫と二人暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている。細やかな気配りや丁寧な仕事ぶりによって顧客からの信頼を得て、上司からの評価も高い。何不自由のない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心が薄い夫との間には、空虚感が漂いはじめていた。そんなある日、梨花は年下の大学生、光太と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初はたった1万円を借りただけだったが、その日から彼女の金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、暴走を始める。

Amazon作品紹介より